「密やかな結晶」を読んで 

2020ブッカー国際賞、最終候補6作に入った作家・小川洋子さんの作品と紹介された新聞の記事を見たきっかけで読みました。

この世に存在する物が次々に消滅していき人々の記憶からなくなっていく物語です。鳥、バラ、小説など。消滅したものを覚えている人は、記憶狩りといって秘密警察に連行されていきます。記憶を残しているものは、ひっそりと身を隠し生活しています。

主人公の母親も記憶を無くさなかったため連行されました。母親は消滅したものを地下室に隠し、大事に取っておきました。「消滅したものが目の前にあると、ひどく心がざわつくの。静かな沼に突然、何かとげとげした固いものが投げ込まれたような感じなの。さざなみが立って、底の方で渦が巻いて、泥がわき上がってくるの。だからみんな仕方なく、消滅したものを燃やしたり、川へ流したり、土へ埋めたりして、できるだけ自分から遠ざけようとするのよ」消滅したものを処分することで記憶を無くしていきます。消滅することを受け入れてきた主人公も、さすがに小説家であるにも関わらず、小説が消滅したときには絶望します。「いや、大丈夫さ。消滅のたびに記憶は消えていくものだと思っているかもしれないけど、本当はそうじゃないんだ。ただ、光の届かない水底を漂っているだけなんだ。だから、思い切って手を深く沈めれば、きっと何かが触れるはずだよ。それを光の当たる場所まですくい上げるんだ。」この言葉で慰められます。記憶を無くす。思い出せない。年を重ねるとそういうものだと思います。光の届かない水底を漂っている。そこに手を深く沈めすくい上げる。思わず断捨離が頭をよぎりました。必要なものだけを残していくものとは違い、懐かしいもの、思い入れのあるものを大事に取っておくのです。タイムリーなことに休日に博物館へも足を運ぶことがあり、はたまた、消滅のことが頭をよぎりました。もし消滅が現実に行われていたら博物館の展示品は消滅にあっています。古いものは何でも躊躇なくゴミ箱に捨てていた私が、すこし考えさせられた小説でした。

 

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2021.4.20 すいか

 

 

 

 

 

 

 

 

バラバ

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